【税金滞納】給与振込後の預金口座差押えで違法判決(令和元年大阪高裁)
大阪高裁令和元年9月26日判決で、差押えにより徴収したものについて不当利得に基づく返還を命じました。
草津税務署が、所得税滞納者の給与口座を給与振込日の2日後に全額差押えた事案で、大阪高裁が「国税徴収法の差押禁止の趣旨に反するものとして違法」と判断したものです。
【税金滞納】預金口座は、全額差押えできる
預金口座については、全額差押さえができます。
ただし、「差し押さえ」と「取立て」は別です。
まずは、差し押さえにより、預金口座の債権を、別段口座に移します。
その後、取立てにより、未納の税金にあてます。
徴収職員は、債権差押えにより、その債権の取立権を取得するから、徴収職員が自己の名で被差押債権の取立てに必要な裁判上及び裁判外の行為をすることができる。
差し押さえた債権の取立て
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/chosyu/05/01/03/067/01.htm
差し押さえと取り立ては、同日実施できますが、国税庁から10日間程度あけるように通達が出ているようです。
滞納者の権利保護の観点から、差し押さえた預貯金債権の取立ては、原則として、 差押えをした日から 10 日間程度の間隔を置いた上で行う。
令和2年1月 31 日
https://www.zenshoren.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2021/01/10_09_20200402.pdf
【税金滞納】給与は、差押え禁止分があるため、全額差押えできない
給与は、労働者やその家族の最低生活を保障するために一定額(10万円+生計を同一にする配偶者その他親族の数×4.5万円)については差押えが禁止されています。
国税徴収法第76条関連 給料等の差押禁止とその範囲
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/chosyu/05/01/06/076/01.htm
【税金滞納】給与が振り込まれた預金口座は、給与?預金?
それでは、給与が振り込まれた銀行口座の預金はどうなるの?
基本的には、預金債権として扱われます。
ただし、実質的に給与と同視することができる場合は、給与の差押え禁止分が認められたことになるというのが、令和元年9月の判例です。
原則として、給料等が金融機関の口座に振り込まれることによって発生する預金債権は差押え禁止債権としての属性を承継するものではない
しかし、給料等が受給者の預金口座に振り込まれて預金債権になった場合であっても、国税徴収法76条1項及び2項が給与生活者等の最低生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差押えを禁止した趣旨に鑑みると、具体的事情の下で、…差押え処分が、実質的に差押えを禁止された給料等の債権を差押えたものと同視することができる場合には、…差押え禁止の趣旨に反するものとして違法となる
大阪高裁令和元年9月26日判決要旨
http://daishoren.org/topics/news/2071.html
https://hiseiki.jp/file/190926_hanketsu.pdf
差押禁止債権が振り込まれた預貯金口座に係る 預貯金債権の差押えについて
https://www.zenshoren.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2021/01/10_09_20200402.pdf
【税金滞納】差押え預金口座を解除する方法
差押え後、取立て前なら、換価猶予
預金差し押さえにあっても、まだ取り立ての前の可能性があります。状況によっては、換価猶予や分割納付の相談ができるかもしれません。
差押え禁止財産の主張
給与口座であれば、本件判例のように、差押え禁止財産として認められる分について、猶予される可能性があります。
給与以外にも、児童手当、コロナ関係の助成金は、猶予が認められるケースがあります。
生計を同一にする親族の人数
生計を一にする親族については、差押禁止財産に関係しますが、先方と解釈が異なるばあいがあります。この点も預金差押え解除の争点になります。
国税通則法基本通達では、「生計を一にする」とは、「納税者と有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいい、納税者がその親族と起居をともにしていない場合においても、常に生活費、学資金、療養費等を支出して扶養しているときが含まれる。なお、同一家屋に起居していても、互いに独立し、日常生活の資を共通にしていない親族は、生計を一にするものではない。」と定めています。
【税金滞納】差押え預金口座を解除する方法 まとめ
預金口座には、様々なお金が振り込まれますが、基本的に「預金債権に転化する」との解釈から、グレーな全額差し押さえがされる実態がありました。
今回の判例により、預金債権であっても、差押え禁止分が考慮されるかもしれません。
交渉は、一筋縄にいかないと思います。話が通じない場合は担当を変えてもらう等検討するとよいです。
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